看護師と保健師の違いは何?保健師に向いている人の特徴はこれ!

「健康関係の仕事がしたい」と思ってはいるものの、今の仕事に向いているのか悩んでいる方はいらっしゃいませんか?

みなさんもご存知の通り、看護師と似た仕事に「保健師」があります。

新型コロナウイルス感染症対策で保健師が対応しているところがニュースで取り上げられるなど知名度はありますが、仕事内容等詳しくご存知の方はまだ少ないかもしれません。

確かに、看護師も保健師もどちらも健康に関する仕事です。

ですが、保健師は単なる看護師の上位資格と思っていたり、看護師がキャリアアップで目指すものと思っていたとしたら、少し違うかもしれません。看護師の仕事と保健師の仕事ではケアの対象も仕事内容も違います。

今回は看護師と保健師の違いや、保健師に向いている人の特徴をまとめてみたいと思います。

看護師と保健師の仕事の違い

看護師の仕事・役割とは

まずは看護師の仕事内容や役割について確認してみましょう。

看護師の業務は保健師助産師看護師法(以下保助看法)第5条に定められています。

「この法律において看護師とは、厚生労働大臣の免許を受けて、傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者をいう。」とある通り、療養上の世話と診療の補助が主な仕事です。 

療養上の世話は、医師の指示がなければ原則として看護師が独立した業務として行えますが、 診療の補助は医師の指示を受けて行うこととしています。

傷病に対する医療的なケアはもちろんのこと、患者やご家族に対する精神的なケアを提供する役割も兼ねています。

医療機関では通院や入院生活に密着して患者の回復をサポートし、介護施設では日常生活に密着して医療処置や健康管理を行います。

保健師の仕事・役割とは

一方保健師は、保健師助産師看護師法第2条「保健師とは、厚生労働大臣の免許を受けて、保健師の名称を用いて、保健指導に従事することを業とする者をいう。」とある通り保健指導が主な仕事です。

保健師は個人の健康相談対応や生活改善のためのサポートをするほか、「企業の従業員」や「地域住民」といった集団を対象に活動することもあります。

少子高齢化やメンタルヘルス問題、メタボリックシンドロームに感染症対策等、日本社会が抱える健康問題はさまざまあります。これらの問題に取り組み、人々がより健康的な生活を送れるように活動するのが保健師の仕事です。

このように看護師と保健師の仕事や役割は全く違います。

同じ健康に関わる仕事ではありますが、対象も目的も違いますから、看護師から保健師へキャリアアップしたいと考えている方はこの違いを理解した上で目指すのが良いでしょう。

保健師になるには

見学する看護師

保健師になるための資格

保健師として働くためには保健師の資格が必要な訳ですが、これは単独では取得できません。

国家資格である「看護師免許」と「保健師免許」両方が必須で、片方を取得しただけでは保健師として働くことはできません。
どちらも年に1回冬に行われる国家試験を受験することになります。

2022年3月25日厚生労働省から発表された数値によると、看護師国家試験の合格率は「91.3%」、保健師国家試験の合格率は「89.3%」。いずれも例年90%前後で推移していることから、保健師免許取得そのものはそれほどハードルが高くないと言えます。

ただし、同じ年に看護師と保健師同時取得を目指す場合は2種類の試験対策を並行して行うことになるため、難易度は少々上がると考えておいたほうがいいでしょう。

第108回保健師8,020人7,948人7,094人89.3%
(うち新卒者)7,525人7,504人6,975人93.0%
第105回助産師2,103人2,089人2,077人99.4%
(うち新卒者)2,092人2,078人2,071人99.7%
第111回看護師65,684人65,025人59,344人91.3%
(うち新卒者)59,440人59,148人57,057人96.5%

保健師の資格取得ルート

保健師の資格を取るためのルートとしては二つ考えられます。

一つ目は看護師と保健師どちらも取得可能な養成機関で学び、ダブル取得する方法です。
試験は大変ですが、あなたが高校生であればこのルートを目指すのが一番早いです。

二つ目は大学または専門学校にて看護師資格を取得した後、保健師養成のための勉強を1年以上できる学校に入り直す方法です。
看護系の大学院に2年所属する方法、看護系大学の保健師養成課程に編入(3年次)する方法、1年で卒業できる保健師養成学校で学ぶ方法があります。

保健師の国家試験に合格しても看護師国家試験に不合格だと保健師資格を得られませんから、一つずつ確実に取得する方法も良いでしょう。

保健師の働く場所

行政保健師

保健師と聞いてまずイメージするのがこの行政保健師かと思います。

公務員として保健所や地域の保健センター等に勤める保健師で、保健師全体の約6割に当たります。市民の健康維持や医療相談受付、難病の方のサポートといった仕事の他、同じ地域で働く公務員に対する保健指導や健康管理も行います。

行政保健師が対応する範囲は幅広いです。

新型コロナウイルス感染症の流行時にニュースで保健所の対応等をご覧になった方もいらっしゃると思います。

そういった感染症対策の他にも、全住民が対象ですから、育児相談から介護予防までそれはもう多岐にわたることは想像していただけると思います。

もちろん地区によって担当が決まっていたり、成人と母子等分野で担当が分かれていたりすることはありますが、担当外や他部署・他機関に繋ぐこともありますから法制度等広い知見が必要です。

保健師の仕事はすぐに結果が出ないことも多いです。
ですが、対象の方との信頼関係を大切にし、出会った人が社会復帰や行動変容している姿を見ると、とても嬉しい気持ちになりますよ。

病気や生きづらさがあっても暮らしは続きます。

地域の輪を繋ぎ、その人らしく暮らしていくためのサポートをする、素敵な仕事です。

産業保健師

産業保健師は、企業に就職して社員の健康管理を行います。

産業医や人事部門の人たちと協働で、その企業で働く人たちの心身の健康維持に取り組みます。
具体的な仕事内容は健康相談や健康診断対応、健康講話や研修、ストレスチェック対応や復職サポート等です。

また、安全管理のための職場巡視や特殊健診の対応や安全衛生委員会に参加する場合もあります。

皆様がご存知のように、企業には産業医を選任する義務がありますが、保健師を活用するかどうかは自由です。
ですが近年「健康経営」の考え方の元、保健師の採用をする企業が増加してきています。

健康経営」とは従業員の健康を増進することで、医療費を削減できるだけでなく、生産性の低下の防止や企業の収益性向上など、さまざまな効果が期待でき企業活力を高めることにつながるとする考え方のことです。

産業医は病院の医師のように常時勤務しているわけではなく、訪問される時間が限られています。よって産業保健師は、病院で指示のもと動く看護師業務よりもさらに主体的に動く必要があります。

1日の中で職場で過ごす時間は長いです。
しかも、仕事は人生の中で大きな生きがいとなっている場合も多いでしょう。

そんな仕事・職場の環境を、誰もが気持ちよく安全に働けるよう整えていくのはやりがいがありますね。また、産業保健師は残業が少なく平日のみの勤務の企業が多いです。

月2や週1、パートや業務委託など雇用形態もさまざまですから、プライベートとのバランスをとりながら多様な働き方が叶いやすい職種だと言えそうです。

学校保健師

専門学校、大学、一部の私立の中学校や高校などの学校に勤める保健師のことです。

養護教諭(保健室の先生)と仕事内容はほぼ同じです。養護教諭は教員免許の一種で多くの公立小中学校は自治体の教員採用試験で養護教諭が募集されます。
しかし専門学校や私立の学校では学校保健師として保健師が募集され、保健師資格でも学校に勤務することができます。

主な仕事は学校に通う生徒や教職員の健康管理や健康維持で、応急処置や健康相談に応じます。
近年は若年層に対するメンタルサポートも課題となっています。

人間関係の悩み相談や就職への不安、発達障害や疾患への合理的配慮に関する対応もあるでしょう。

多感な時代の子供たちの気持ちに寄り添い、力になることができるという大きなやりがいがありますが、求人数があまり多くありません。非常に狭き門だと言えるでしょう。

病院保健師

病院保健師は、病院で働く保健師です。

病院内の健診センター等で健康診断や健康相談を行うほか、通常の看護師の仕事と兼務する場合もあります。

通常の看護師の仕事と兼務する場合、看護師業務しか携われない看護師と比べると当然年収は高くなることが考えられます。

また、24時間体制で患者さんをサポートする大規模の病院の場合、夜勤業務による夜勤手当もつくことにより、さらに多くの給料を得られる可能性があります。

保健師の給料は?看護師との違いや勤務先ごとの特徴

看護師と保健師の年収の違い

では看護師と保健師では年収に違いはあるのでしょうか。

厚生労働省の「令和3年賃金構造基本統計調査」によると、保健師の平均年収は約481万円でした。一方看護師の平均年収は499万円で、どちらもほぼ変わらないと言っていいでしょう。

国家資格を2つ取得しないといけないからといって保健師が大きく年収アップになることはありません。

保健師で夜勤がある勤務先は極めて少ないです。

看護師で夜勤手当がある状態から日勤のみの勤務に転職しようと考えた場合、看護師として就職するよりも保健師で仕事をする方が若干年収が高くなることはあるかもしれません。

ですが、基本的には看護師だから、保健師だからというわけではなく働き方で給料の違いが出ていると言っていいと思います。

勤務先による違い

保健師は勤務先がさまざまです。

保健センターや保健所に勤務する保健師であれば地方公務員にあたりますから、地域手当等地域によって給料に差があります。また、地方公務員の保健師は、月給から共済年金分が引かれます。

共済年金は、年金制度の「3階部分」といわれており、その他の年金よりも手厚い分、引かれる金額も多いのが特徴です。

また行政保健師はHIVや結核などの感染症や精神病の患者などと接することもあり、特殊勤務手当がつく場合もあります。

扶養手当や調整手当、住居・通勤手当といった諸手当も手厚いです。

産業保健師であれば就職した会社の給与体系に基づいて支払われます。

これも会社によってかなり年収に違いが出ます。しかし、保健師を雇う企業は大企業が多いので、サラリーマン全体の中では高水準の給与と言って良いでしょう。

学校保健師は勤務する大学、専門学校、私立の小・中・高校の給与体系に基づいて支払われます。
こちらも学校によって差があり、私立の学校は国公立よりも高めの傾向になるようです。

保健師に向いているのはこんな人

人のために動くのが好きな人

保健師の仕事はまさに「縁の下の力持ち」です。

「人のために」という想いを行動のモチベーションにできる人に向いている仕事だと言えます。

社会やそこで暮らす人が抱える課題や問題点を自分でみつけることができ、解決に向けて知恵を尽くすことができる人は、保健師に適性があります。

職場によっては1人配置で保健師の先輩がいない場合もあります。
また、寄せられる相談事はさまざまでマニュアルや定石通りに行かない場合もあるでしょう。

対象の方の立場に立って親身に試行錯誤できる人が向いている仕事だと言えるのではないでしょうか。

予防医学に関わりたい人

治療よりも、健康増進や病気の早期発見に興味がある人は保健師に向いています。

病気を発症したり寝たきりになったりしてから治療を開始するのではなく、元気なうちに介入して元気に過ごせる時間を伸ばしたり病気にならないようにできたらと思いませんか?
これは予防医学での一次予防に当たります。

こういった関わりをしたい方は看護師より保健師として仕事を探した方が良いでしょう。

急性期病棟などでスピードの速い治療や看護を経験していると、すぐには結果が出ず長期で関わる必要がある保健師業務は物足りなく思えてしまうことがあるかもしれません。

しかし、病院での対応でも退院後の生活を見据えた関わりや家族支援を行うでしょうし、「もっと早く対策をとれていれば重症化しなかったのに」と予防の重要性を意識したことがある方もいるでしょう。

そういった方は病気の「一次予防」に関わる保健師の仕事に向いているのではないでしょうか。

プライベートと両立したい人

保健師の仕事は働き方がさまざまです。

日勤常勤、土日祝休み、パートに業務委託と多種多様です。

全体の求人数が看護師よりも少ないので、すぐに希望する働き方ができるとは限りませんが、育児や介護などと両立するために自分に合った働き方をしやすいと言えます。
残業や休日出勤があまりないのも嬉しいですね。

保健師の6割を占める行政保健師は、夜勤なしにも関わらず、常勤なら年々給与は上がっていきますし退職金もあります。

プライベートもキャリアも両方諦めたくない人には良いかもしれません。

パソコンに抵抗がない人

実は保健師はパソコンをかなり使用します。

タイピングに関しては病棟の看護記録の入力で慣れている人が多いと思いますが、Word(文章作成ソフト)やExcel(表計算ソフト)も使用することが多いですから、パソコンに抵抗がない人に向いています。

資料や企画書の作成、健康管理データの入力、勤務先によっては保健指導用のスライド作成にPowerPointを使用する勤務先もあるでしょう。ビジネスメールも必須です。

産業保健師では募集の段階でExcelやWordスキルを必須としているところもありますから、得意だという人は良いアピールポイントになりますね。

コミュニケーションが得意な人

赤ちゃんからお年寄りまで、いろいろな人と日々接することになるため、コミュニケーションが得意な人に向いています。
人に言いにくい悩みを抱えている人に向き合うことも多く、信頼関係を大切に丁寧に話を聞く姿勢も大切です。

ポジティブさや場を明るくする快活さも必要ですが、それ以上に温かさや、人の心を解きほぐすコミュニケーション力が求められます。

まとめ

今回は看護師と保健師の違いや保健師に向いている人の特徴についてまとめました。

看護師と保健師ではそもそも仕事の対象や内容が全く違います。

看護師は怪我や病気の人を対象に療養上の世話や治療の補佐をするのが仕事です。
一方で保健師は全ての人を対象に予防医学の一次予防である健康増進や早期発見につながる保健活動をするのが役割となっています。

保健師の働く場所はさまざまですが、多くが行政保健師です。

産業保健師や学校保健師は近年増加してきていますがまだ数が少ないので、希望する方は効率よく求人をチェックする必要がありそうです。

予防医学に興味があり、人のために動くのが好き、パソコンにも抵抗がない方は保健師に向いています。

プライベートとの両立がしやすい夜勤のない働き方も叶いますから、保健師に興味がある方は情報収集を始めてみてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人

森野 かおり

新潟大学医学部看護学科卒業。看護師・保健師・養護教諭免許取得。健診センターや保健室を経験し、現在は保健師として特定保健指導に従事。講師やwebライターとしても活動する2児の母。

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