看護師は医療職の中でも、その仕事内容や労働環境がハードな職種として知られていますよね。最近では3Kではなく9K(危険・汚い・きつい・給料が見合わない・休暇がとれない・婚期が遅れる・帰れない・規則が厳しい・化粧ノリが悪い)と言われるようになり、その過酷な仕事環境を物語っています。
多くの看護師が、自分の働き方を見直し、よりよい条件の職場へ転職を考えることは当たり前のことでしょう。せっかく頑張って手に入れた国家資格です。より自分の希望条件に合ったところで力を発揮したいですよね。
看護師の需要は、今後の少子高齢化の加速に伴い、今後もさらに高まるといわれています。2019年厚生労働省の推計によると、団塊の世代が後期高齢者となる2025年には看護師の数が約6万~27万人不足するという報告があります。そのため、国全体で看護師の確保に力を入れるための法律(看護師等の人材確保の促進に関する法律)まで制定されています。
国の問題である潜在看護師を減らすためにも、看護師として自分の希望にあった働き方ができる職場へ転職をすることは、今後看護師の離職率を減らす上でも重要なことなのです。
今回はどのような理由で看護師が転職を考えるか、また失敗しないために押さえておきたい、転職を成功させるポイントについて詳しくご紹介していきます。
1. 看護師の主な転職理由とは
看護師における、1人あたりの生涯転職回数は平均して「2~3回」と言われています。しかし、実際の現場では、3回以上転職経験があるという人はよく聞きます。中には5回以上という人もおり、転職は珍しくありません。ライフスタイルの変化や、職場環境の不満を解消するためにも、その時の自分に合ったところへ転職をするのが当然であり、それができる職種であるともいえます。
では、どのような理由で退職を考えるのでしょうか。
厚生労働省が発表した看護職の主な退職理由として以下があげらます。
- 出産・育児のため
- 結婚のため
- 他施設への興味
- 人間関係がよくないから
- 通勤が困難
- 超過勤務が多いため
- 休暇がとれない、とりづらいため
- 夜勤の負担が大きいため
- 給与に不満があるため
【参考】平成26年 厚生労働省 「看護職員の需給に関する基礎資料」
これらをみて分かるように、出産・育児・結婚といったライフスタイルの変化による退職理由の他に、働いている環境や人間関係等が原因で退職を決めている人も多いことが分かります。ここでは退職理由を大きく5つにわけ、その内容をさらに詳しくみていきます。
1‐1.ライフスタイルの変化や家族の都合によるもの
結婚、出産、育児等を機に、職場を退職せざる得ないケースは多くみられます。家族が増えたり、転居をする、家族の看護や介護等で、これまでと同じように働くことが困難な場合も出てくるからです。また、妊娠により夜勤のようなハードな勤務ができなくなってしまった、体調が悪くても人手不足のため休暇をとることができない、産後すぐ職場復帰をするよういわれる、育児休暇を十分にとることができないなど、仕事を続けたいという意思はあるのに、職場環境によって退職せざる得ない場合もあります。
仕事も大事ですが、家族やプライベートがあってこその仕事です。自分の基盤であるプライベートがしっかり整っていないと、心身ともに体調を崩し、医療事故にもつながってしまいます。家族や家庭の事情を機に、より自分の働きやすい環境を選択していくことは大切なことです。
1‐2.別の施設・職場への興味
現在の職場である程度仕事がこなせるようになっったり、学べる看護スキルを習得できたのであれば、今までと違う職場や施設に興味を持ち、そこで自分のスキルを生かして働きたいと思うことはあるでしょう。特に、自分のスキルアップのために他の施設で学びを深めることは、看護師としての自分の価値を高めるためにも大きな財産になります。また、職場を変えることで、研修制度や内容が違い新しいことが学べる、院外研修への費用を負担してくれる、今まで携わったことのない症例を扱っている等、自分が追求したい分野や専門性をより高めることも期待できます。
その他、看護師の友人・知人等が働いている施設の労働環境を聞いて、自分の労働環境と比べてしまうこともあるでしょう。他の施設と比較することで、自分の労働条件や給与などに不満を抱いてしまうこともあります。それにより、別の施設や職場へ興味を持ってしまうのは当然のことです。
1‐3.人間関係がよくない
看護師はいまだに94%が女性といわれる「女性の職場」です。また、仕事内容も特殊であり、若年から年配の方が同じ職場で勤務していることも珍しくないことから、看護職特有の雰囲気を持っています。さらに、職場によってもその雰囲気は違うため、そこで合う合わないというのは実際働いてみないと分かりません。結果、人間関係がうまくいかず退職を考える例はよくあるケースです。
また、うまの合わない上司や、意見が言いにくい先輩がいることで、うまく意思疎通ができずストレスを抱えてしまうこともあります。そうなると、業務に支障を来たし、医療ミスにつながるといった危険もあります。患者さんや自分の身を守るためにも、人間関係がよくないところで働き続けることは賢明なことではありません。
1‐4.労働環境が過酷
職場によって、超過勤務が当たり前になっている、本来の権利である有給休暇が自由にとれないといった、理不尽な暗黙のルールが存在することがあります。そのため、おかしいと思っていても口にできなかったり、周りの人がやっているのであれば、自分も合わせないといけないといった同調圧力も存在します。
また夜勤業務がハードで、休憩がほとんど取れないといった職場もみられます。この状態が続くと、夜勤に対する抵抗や、体力への自信喪失、家庭との両立が難しくなることも多くみられます。
実際労働環境が悪くても、それを意見して業務の傍らで働き方を改革していくことはとても難しく、骨が折れることです。場合によっては、自分の立場を悪くすることにつながってしまいます。
労働環境が過酷なことが原因で体調を崩したり、自分のプライベートな時間を確保できなくなるのであれば、転職を考えることは必要なことです。
1‐5.給与に不満がある
自分の給与が低いと感じることが、退職の理由のひとつにもなっています。責任が重い仕事で労働環境も過酷であるにも関わらず、給与も割に合わないと感じてしまうと働くためのモチベーションは下がってしまいます。また、納得のいく評価をしてもらえない、昇給や賞与が少ないと今後の仕事に対する希望もなくなり、向上心もなくなるでしょう。
給与は自分の仕事の質をアップさせるためにも重要な要素のひとつです。給与が見合っておらず、それによりやる気を喪失するぐらいであれば、より自分の希望に合った職場を探す方がよいでしょう。
2.転職のしやすさの目安である看護師の有効求人倍率は?
いざ転職を考えはじめたら、自分の希望するところへ転職ができるのか不安に思うことはあるでしょう。しかし、看護師は引く手あまたな職種でもあります。それを示すのが有効求人倍率です。これは、求職のしやすさを表しており、求職者1人に対して何件の求人があるかを示しています。この有効求人倍率は、厚生労働省が2カ月に1回公表してるものであり、看護職についても毎回提示されています。
2021年6月の厚生労働省の報告によると、看護職の有効求人倍率は2.44倍であり、求職者1人あたり2.4件の求人があることを示しています。同月の一般の職業全体の有効求人倍率が1.13倍であることを考えると、看護師は一般職と比べ、求められている職場が多く、自らが選ぶ立場になれます。そのため、自分の条件にあった職場に転職することも可能であるといえるでしょう。
また、前述したように看護師の需要はどんどん増え、転職事情も長年「売り手市場」といわれています。今後もその傾向が続く見込みです。看護師は、自分が転職をしたいと思ったタイミングでいつでも転職活動を行うことができる職種ともいえます。
【参考】2021年6月 厚生労働省 「一般職業紹介状況(令和3年6月分)について」
3.看護師が転職を成功させるための6つのポイント
有効求人倍率が高いとはいえ、自分の希望条件に合った転職先を探すことは簡単なことではありません。しかし、転職を成功させるポイントをしっかり押さえることができたら、満足のいく転職先を見つけることは、他の職種に比べて十分可能です。焦って転職し、後悔しないためにも、転職を成功させる以下の6つのポイントをおさえていきましょう。
3‐1.転職したい理由を明確にする
まずは、自分が転職をしたいと思った理由を明確にすることです。やっとの思いで転職をしたにも関わらず、新しい職場でも同じ理由で悩んでしまう人はいます。
これは焦って転職先を探したり、十分にリサーチができていなかったということも考えられますが、一番は転職理由を明確にしていなかったことが原因としてあげられます。家庭のことや労働条件、スキルアップをしたいなど、人によって転職理由はさまざまですが、なぜ、自分が転職をするまでに至ったかをはっきりさせることで、次の職場選びの大きな目安になります。
3‐2.希望条件に優先順位をつける
転職理由を明確にさせたのであれば、つぎに、転職先に対して自分の譲れない条件や希望をあげ、それに優先順位をつけます。もちろん、退職理由もしっかり加味しましょう。そして、ちゃんと可視化できるように書き記してください。こうすることで、自分の考えの整理ができますし、新しい職場を探すにしても無闇に探すことがなく、より焦点を絞って理想の職場をみつけることができます。
3‐3.求人情報をしっかり確認する
希望条件に優先順位をつけた後、実際その条件が当てはまっているのかをみるのに重要な情報になるのが、その施設が提示している求人情報です。求人情報には、求められるスキル・給与・休日・賞与実績・勤務形態等が記載されおり、ある程度自分の希望条件にあっている職場かどうかをふるいにかけることができます。
しかし、施設よって知りたい項目の部分が具体的に示されていなかったり、要相談と示されていることもあります。逆に、とても詳しく丁寧に記載してあるところは、それだけ信頼のできる職場といってもよいでしょう。
気になっている施設が求人を出しているのであれば、求人情報が示してある「求人票」をハローワークでも簡単に入手することが可能ですが、求人を募集していてもハローワークを経由していない場合もあります。その際は、自分で施設に問い合わせをするか、転職サイトを経由して求人情報を確認する必要があります。
3‐4.病院・施設見学をする
ネットや紙面上の求人情報だけでは分からないこともあります。そのひとつが、職場の雰囲気や環境等です。転職に失敗しないためにも、実際施設見学に行ってみると、そこではじめて分かる雰囲気やイメージを掴むことができます。
また施設見学をすることで、スタッフの動きや態度、施設の人間関係も推測できる場合があります。さらに、説明をして下さる人へ直接質問ができるため、分らなかった情報をより詳しく得ることができるのは大きいメリットといえるでしょう。自分がそこで働く想像をしてワクワクするようであれば縁があるかもしれません。
現在は、コロナ禍で施設の見学が難しくなっているところもありますが、人材不足であることは変わっていません。施設の見学ができなくても、話を聞けたり、時期をずらして施設見学を案内されるところも多いですので是非問い合わせてみましょう。
3‐5.採用者に好感を持たれる履歴書を書く
履歴書は、面接を行う前に自分の第一印象を決める大事な書類です。最初に目に入る履歴書で好感を持ってもらうことができれば、直接会って話をしたいと思われ、採用につながりやすくなります。好感が持てる履歴書を作成するには以下に注意していきましょう。
まず、履歴書の基本は「誤字・脱字はないか」、「必要な内容がしっかり示されているか」、手書きでの履歴書であればあれば「丁寧な字で記されているか」が大切になります。これらは基本的なことであるが故に欠けていると、あなたの印象を悪くしてしまうことになります。
また、「履歴書の写真は清潔感があるか」も重要なポイントです。医療職者にとって見た目の清潔感は、患者さんや対象の方に不快な思いをさせないためにも気を遣わないといけない部分です。ましてや、証明写真で清潔感がなかったら大きなマイナスとなるでしょう。清潔感は、髪型・服装・服の色・顔色(メイク)等で作ることができますので、証明写真を撮る時は、しっかり準備をして撮影に臨みましょう。
そして、履歴書を書く上で一番大事なポイントは、「志望動機は何か」「自分が今できることは何か」「この職場で自分はどのようなことで貢献していけるか」をしっかりアピールすることです。採用側はあなたを採用することで、この施設にメリットがあるかを見ます。そのため、個人の経歴や実績、資格も重要ですが、自分がこの職場にとってメリットになる人材であることをアピールできるようにしましょう。
また、志望動機や前職の退職理由が私的理由の場合もあり、伝えるときに悩む場合もあります。その際は、ストレートに伝えるのではなく、採用者側に不快を与えることのないような理由を提示しましょう。嘘はいけませんが、ここでは本音と建て前が必要になってくる場合があります。そのためには、そこの施設を褒めることを外してはいけません。どういうところが魅力的と感じ、この職場で働きたいのかを、自分の言葉ではっきり伝えていきましょう。それにより、好印象にもつながり、やる気があることをアピールすることができます。
3‐6.看護職専門の転職サイトを活用する
これまで述べたポイントを全て自分でできれば、問題ありません。しかし、ひとりで詳しい情報収集や施設見学、好印象の履歴書を仕上げるのは大変な作業です。また、行っている求職活動が、転職を失敗しないために正しく動けているのかも不安になるでしょう。そういうときに頼りになるのが、看護職専門転職サイトの活用です。登録することで、プロが個人に合わせた転職活動をサポートしてくれます。
例えば、情報収集でも、ネットの求人情報や求人票だけでは分らない内部の情報を提供してくれ、自分では得ることができなかった詳細を多く知ることができます。
また、施設見学の段取りをサポートしてくたり、連絡のやり取りも間に入り調節してくれます。そのため、自分で施設にアポイントをとるよりも簡単でストレスがなく、プロが仲介してくれることもありスムーズにやり取りができることから、施設側もメリットが大きくなります。
さらに、履歴書の書き方の相談、面接の相談や対策なども細かく指示してくれます。正解が分らない履歴書を、プロの目で確認してもらうことだけでも、好印象な履歴書が作成でき、転職の成功率が上がります。また、面接に際しての注意点や、アピールポイントの確認も相談することができるため、大変心強い存在です。また、面接がひとりで心細い場合などは付き添いをしてくれ、フォローをしてくれる場合もあります。
筆者もこれまで、それぞれ違う転職サイトを利用して、2回転職を成功させることができました。そして毎回、転職サイトを利用してよかったなと思うのは、自分と施設の間に入って質問しづらいことも相談することができたということです。自分の希望条件と照らし合わせ、先方に交渉もしてくれるため、より満足のいく条件で新しい職場を探すことができます。今振り返っても、自分ひとりではここまで満足度の高い求職活動は難しかっただろうと感じています。
転職をしたい、十分な時間がない、方法が分からない、転職先を失敗したくないと感じているのであれば、まずは看護職転職サイトに無料登録してみるとよいでしょう。
まとめ
看護師の主な退職理由は、ライフスタイルの変化や家族の都合によるもの、別の職場への興味、人間関係がよくない、労働環境が過酷、給与に不満があるといったことが挙げられ、理由はさまざまです。しかし、看護師は一般職と比較しても有効求人票が高い業種であるため、自分が転職したい時にいつでも転職できる職種といえます。今回、転職を成功させるための6つのポイントを紹介しました。そのポイントをおさえることができたら、今よりもよい条件の職場をみつけることはできます。
自分に合わない環境で働くことでモチベーションが下がり、看護の質が低下するぐらいであれば、積極的に転職を考えるのはよいことでしょう。そして、今後も看護師の資格を有意義に活用し、社会に貢献していきましょう。
転職先が決まるまでは、心苦しい思いをすることもあると思いますが、最後は転職をしてよかったと思える職場に出会えることを心より祈っています。
この記事を書いた人
古市 菜緒
助産師・看護師・保健師免許保有。助産師としてこれまで10,000件以上の出産に携わり、5,000人以上の方を対象にセミナーの講師を務める。助産師のレベルが世界的に高いといわれるオーストラリアとニュージーランドで生活。帰国後バースコンサルタントを起ち上げ、高齢出産の対象である35歳以上の女性にむけた「妊娠・出産・育児」をサポートする活動を行う。その他、関連記事の執筆・監修、オンラインサミットやセミナー講師などを務める。