妊娠したことがわかり、最初に考えるのは職場への妊娠報告ではないでしょうか?
職場へ妊娠報告をした結果、肩身が狭くなったり、マタハラを受けたりしないか不安に感じる人もいます。特に日々激務を強いられている看護師の職場では、人員不足に悩んでいるため、妊娠に対して「産休=人員が減る」というイメージを持つ人も少なくありません。
また、日本医療労働組合連合会による「2017年 看職員の労働実態調査結果報告書」によると、妊娠報告後にマタハラを経験した人は、10.5%というデータもあります。
参考資料:日本医療労働組合連合会/2017年 看職員の労働実態調査結果報告書 P38
このような職場に妊娠報告をするのを億劫に感じる人の気持ちも凄くわかります。実際、私も看護師をしており、何度も妊娠報告をする場面を見てきました。
そこでこの記事では、「看護師の妊娠報告のタイミング」や「働く上での注意点」についてお伝えます。
母体・胎児共に無事出産を迎えられるように、ベストなタイミングで妊娠報告をして、困った時に助けてもらえる環境作りができるようになりましょう。
では、詳しく解説します。
目次
看護師が職場へ妊娠報告するベストなタイミング
看護師が職場に妊娠報告をするベストなタイミングは、以下の通りです。
- 初産婦なら「妊娠8週目」
- 経産婦なら「妊娠16週目」
初産婦と経産婦で報告するタイミングが異なり、理由についても解説します。ぜひ、参考にしてください。
初産婦なら「妊娠8週目」
初産婦なら妊娠8週目に報告すると良いでしょう。
妊婦としての経験がないため、1人でも多くの相談相手や理解者を早めに作っておくことが大切だからです。勤務調整や負担の大きい仕事など、すぐに相談できる人がいれば、気持ちが楽になります。
一般的に胎児心拍が確認できるのは、妊娠6〜8週と言われており、母親になることを意識し始める時期でもあります。また、ホルモンバランスの急激な変化から体調を崩しやすいため、悪阻や食欲不振、気分不良など心身ともに辛い時期でもあります。
特に初産婦は経験したことのない辛さを感じる一方で、相談できる人がいないと、無理をして働き、胎児に悪影響を及ぼす危険性もあります。だからこそ早めに妊娠報告をして、相談できる人を作っておくことが重要なのです。
経産婦なら「妊娠16週目」
経産婦なら報告のタイミングは、妊娠8〜16週が良いでしょう。
妊娠経験があるため、報告のベストタイミングを見極められるからです。およその目安として、8週目で師長へ、16週以降でスタッフへ報告するパターンがあります。
公益社団法人 日本産科婦人科学会によると、妊婦の約4割が流産をしており、その8割以上が妊娠早期12週目未満と言われています。そのため妊娠16週を超えて、安定期になってから報告するという人が多いようです。また、経産婦なら周りへの頼り方を知っているため、初産婦よりも柔軟に対応できるでしょう。
体調と相談しながらベストタイミングで妊娠報告できるように、参考にしていただければ幸いです。
職場へ早めに妊娠報告する5つのメリット
妊娠報告のタイミングで迷うなら、以下5つの理由から、早めの報告をおすすめします。
- 助けてもらいやすい
- 勤務調整してもらいやすい
- 前もって業務の引継ぎができる
- 時間をかけて出産後の働き方を考えられる
- 報告するタイミングを逃す心配がない
早めに妊娠報告し、これらメリットを最大限活用できるようになりましょう。
では、順番に解説します。
1)助けてもらいやすい
早めに妊娠報告をすることで、妊娠初期から相談できる人や助けを求められる環境作りができます。
妊娠初期は母体の変化が著しく、悪阻や気分不良など体調が優れないことが多々あります。また看護職は力仕事のような身体的負担が多く、胎児への悪影響も否定できません。
妊娠報告は、妊婦であると周知するだけでなく、何かあれば助けてもらえる環境・関係作りをするために重要なのです。胎児にかかる負担を最小限にして、辛い時期に一人で悩まないためにも、妊娠報告は早めにしましょう。
2)勤務調整してもらいやすい
早めに妊娠報告をすることで、勤務調整の融通が効きやすくなります。
妊娠が理由で勤務調整を相談するなら、希望が通りやすくなるからです。また勤務調整をする師長にとっても、当面の見通しが立てられるメリットもあります。
例えば、妊娠週数に合わせて夜勤や当直回数を減らしてもらうことや、妊婦検診の日に合わせて休みをもらうこともできます。母子への負担が大きい業務内容の調整もしてもらえるでしょう。
勤務調整をしてもらえるだけでも、あなたやお腹にいる胎児への負担を軽減できます。
3)前もって業務の引継ぎができる
前もって業務の引き継ぎができることも、早めに妊娠報告をするメリットです。
特に経年数が3年目以上になると、看護業務以外にも委員会やプリセプターなど引き継ぎが必要な業務を任せられている場合があります。産前8週まで母子ともに健康で働けるなら時間に余裕を持って引き継ぎができます。しかし切迫などの状況によっては、急遽出社ができなくなる可能性もあります。
引き継ぎができていなければ、業務の混乱を招いたり、スタッフへ負担や迷惑をかけたりする恐れがあります。
余裕を持って業務の引き継ぎができるように、妊娠報告は早めにしましょう。
4)時間をかけて出産後の働き方を考えられる
早めに妊娠報告をしておくと、出産後の働き方について時間をかけて考えられます。
先輩や同期に子育てをしながら働くメリットやデメリット、工夫などについて相談できるからです。経験談を聞いておくと、「退職」or「復帰」のどちらが良いかも考えやすくなるでしょう。
例えば、あなたは総合病院の外科病棟で勤務中です。今の病棟へ復帰すると子育てとの両立が難しいとわかれば、復帰後は回復期の病棟配属を希望したり、夜勤のないクリニックへ転職したりする方法を考えられます。
経験者に相談すると、具体的なアドバイスが聞けて、一人で悩む心配もなくなります。出産後の働き方について時間をかけて考えられることからも、早めに妊娠報告をするメリットは大きいでしょう。
5)報告するタイミングを逃す心配がない
早めに妊娠報告を済ませておけば、タイミングを逃すこともありません。
特に初産婦は妊娠経験がないぶん不安でいっぱいになるでしょう。その上、職場へ報告するとなると億劫に感じる人も多くいます。
報告が遅くなればなるほど言い出しにくくなったり、「なぜもっと早く報告しなかったの?」という心ないことを言われたりするかもしれません。「私だって早めに言いたかったのに」という思いを抑えながら、報告するのは辛いものです。
妊娠報告が精神的負担になる前に、早めに報告しておきましょう。
職場へ早めに妊娠報告する3つのデメリット
この章では、早めに妊娠報告をするデメリットについて、以下3つを紹介します。
- マタハラを受けるリスクがある
- 流産・死産をした時の報告が辛い
- 指導してもらえなくなる可能性がある(新人看護師の場合)
では、詳しく解説します。
1)マタハラを受けるリスクがある
早めに報告したことで、マタハラを受けたり、その期間が長くなったりするリスクがあります。
そもそもマタハラとは、マタニティーハラスメントの略称です。妊婦に対して、職場内で精神的かつ身体的な嫌がらせを行う行為を示します。仕事中の嫌がらせに加え、会社から余儀なく退職を進められるなども含まれます。
看護師の場合は人員不足から不当解雇される可能性は低いものの、妊娠後に職場スタッフから嫌がらせを受けるケースは十分考えられます。
以前、私が働いていた職場でも、同期の妊婦が先輩からマタハラを受けて、辛い思いをしました。この事例については、マタハラを知ったスタッフ数名で上司に相談し、厳重注意をしてもらいました。
マタハラをする看護師には、以下の理由があります。
- 妊娠への嫉妬
- 産休でスタッフが減ることへの苛立ち
しかし、これら理由は決して正当化されるものではありません。もしマタハラの被害に遭った場合は、上司に速やかに相談し、適切な対処してもらいましょう。
2)流産・死産をした時の報告が辛い
流産や死産をした時に報告が辛いのも早めに妊娠報告をするデメリットでしょう。
看護職は、力仕事や夜勤による生活リズムの乱れなど、精神的かつ身体的な負担が大きく、流産のリスクが高い仕事です。加えて、妊娠16週までは、母・胎児ともに状態が不安定でもあります。
流産・死産になった場合、妊娠を喜んでくれた職場への報告は、打ちひしがれます。仮に妊娠報告をしていなければ、何事もなかったように振る舞うこともできたでしょう。
早めに報告することで、このようなデメリットもあるのです。
しかし、早めに報告をしておくに越したことはありません。流産や死産という最悪の事態にならないためにも、早めに妊娠報告をして、相談や助けを求められる環境作りが重要なのです。
3)指導してもらえなくなる可能性がある(新人看護師の場合)
新人看護師の場合は、妊娠報告を境に指導や教育をしてもらえなくなる可能性があります。
産休・育休に入るなら今の指導も無駄になると考える先輩がいるからです。しかし、妊娠と新人教育は別の話であることを覚えておきましょう。
指導や教育をしてもらえないと、仕事が思うように進まず、かえって精神的ストレスは増えてしまいます。仕事が進まず退勤時間が長引けば、疲労やストレスも増すでしょう。
そこで、教育担当の先輩に妊婦になったとしても成長したいことに変わりはないと伝え、指導は継続してもらえるように話しましょう。
妊婦の看護師が安心して働くための4つの注意点
妊娠報告をしたら、一安心と思った人は少しだけ待ってください。産休に入るまでは、看護師の仕事を続けなければいけません。そして、看護師だからこそ知っておくべき注意点もあります。
- 身体的負担が大きい業務の軽減
- 勤務調整をしてもらう
- 感染症患者との接触を避ける
- マタハラはすぐに上司に相談する
産休に入るまで安心して働けるように、4つの注意点を知っておきましょう。
1)身体的負担が大きい業務の軽減
流産や死産のリスクが高まる身体的負担が大きい業務は、軽減してもらいましょう。
身体的負担が大きい業務の具体例は、以下の通りです。
- 清潔ケア
- 検査の移送・介助
- 注射・創部・褥瘡などの処置
- 感染症及び重症患者の受け持ち
- 夜勤・当直
- その他、臭いが伴い気分不良を誘発する業務…etc
特に妊娠後期は体重が増えてお腹も大きくなるため、体の重心が変わり、バランスが取りにくくなります。移乗など患者を抱える業務は、転倒リスクがあります。ベッドサイドで中腰になりルート確保をするなら、お腹の張った妊婦にとって負担の大きい体勢です。無理に中腰になると胎児を圧迫するリスクもあります。
またホルモンバランスが乱れから、食事や排泄物の臭いは気分不良や吐き気を誘発する原因になります。そのため、身体的負担だけでなく、臭いなどの負担についても周りに相談しておきましょう。
2)勤務調整をしてもらう
妊婦の体調は日々変化するため、その時々で勤務調整の相談をしましょう。
体調の変化の例をあげると、匂いが気になりご飯を受け付けなくなったり、お腹が張って息切れをしたりします。体調を考慮して急遽病院を受診しなければいけないこともあるでしょう。胎児を守るために、止むを得ず勤務調整が必要な場合もあります。
また妊娠後期になると妊婦検診の回数も増えるため、日程調整について早めに師長へ相談することをおすすめします。
臨機応変に勤務調整をしてもらい、妊娠中の体と上手に付き合っていきましょう。
3)感染症患者との接触を避ける
感染症患者との接触はできる限り避けましょう。
もし菌やウイルスが母体を通じて胎児に感染したら、胎児の命が脅かされます。最悪の場合、流産や死産も考えられるので、感染症には細心の注意が必要です。感染症患者と関わらざるを得ない勤務であれば、無駄な接触は避けつつ、徹底した感染対策を心がけましょう。
また妊娠中は、原則母親の薬の使用が禁止されています。お腹の中で母体と胎児の血管がつながっているため、母親が使用した薬剤は胎児へも影響を及ぼすからです。もし感染症にかかったら、医師へ相談し、薬剤の有無について検討してもらいましょう。
以下の表は、日本産婦人科医会による「妊娠の各時期による薬剤の影響の変化」についてです。
参考サイト:日本産婦人科医会/妊娠の各時期による薬剤の影響の変化
このようなリスクがあるため、感染症患者との接触や薬剤の使用機会は避けられるように心がけましょう。
4)マタハラはすぐに上司に相談する
マタハラの被害に遭ったら、迷わず上司に相談しましょう。
時間が経つと解決される問題でもなく、早めに対処するに越したことはありません。また、マタハラのある職場で働くストレスは、胎児にとってストレスになります。
上司に相談するなら、「特定の先輩に無視される」「検査出しなど負担の多い仕事ばかり付けられる」など具体的な内容を伝えましょう。上司も気にかけやすく、未然に防いでもらえる可能性が高まります。
実際、私の元職場でも無視や負担の大きい仕事を押し付けるマタハラがありました。被害に遭った妊婦がすぐ上司に相談した結果、師長や労働組合にて対処していました。
マタハラの被害に遭ったら、1人で悩む前に上司へ相談することが重要なのです。
【効果絶大】職場からマタハラをされた時の3つの対処方法
病院自体から受けるマタハラへの対処方法を考えたことはありますか?
特定のスタッフからのマタハラであれば、上司に相談し、厳重注意をしてもらうことで解決できます。しかし、病院など職場が相手になると、話は変わってきます。特に今の職場に復帰したいと考える人にとっては、重大な問題でしょう。
そこでこの章では、職場からマタハラをされた時の3つの対処法について解説します。
- 労働制度を利用
- 母性健康管理指導事項連絡カード
- 転職
病院からのマタハラ被害への対処方法として、ぜひご活用ください。
1)労働制度を利用
労働制度を利用すると労働に関するマタハラへ適切に対処できます。
労働基準法には、以下内容で母性保護規定が含まれています。
規程 | 詳細 |
休業・産前 | 産前6週(多胎妊娠の場合は14週間)・産後8週は就業させてはいけない〈いずれも女性が請求した場合に限る〉 |
妊婦の軽易業務転換 | 真鍮の女性が請求した場合には、 他の軽易な業務に 転換させなければならない |
妊産婦等の危険有害業務の就業制限 | 妊娠・出産・保育に有害な業務に就かせてはならない |
妊産婦に対する変形労働時間制の適用制限 | 1日及び1週間の法定時間を超えて労働させてはならない |
深夜業の制限、休日労働、妊産婦の時間外労働 | 時間外労働・休日労働・深夜業をさせてはならない |
参考資料:厚生労働省/働基準法における母性保護規定 P18〜19
これら制度からも分かるように、妊婦は法的根拠に基づいて守られています。マタハラから自分の身を守る制度を知り、被害に遭った場合は適切に対処できるようにしておきましょう。
2)母性健康管理指導事項連絡カード
母性健康管理指導事項連絡カードとは、女性の働きやすい職場を目指し、医師が事業所(職場)に対して発行するカードのことです。
例えば、体調面を考慮して勤務調整の相談をしたにも関わらず、却下された時などに有効です。母性健康管理指導事項連絡カードでは、通勤や休憩時間など医師からの指示が明確に示されており、提出された事業所は記載内容に順じた対策が求められます。
根拠となる法律は、「妊娠中及び出産後の女性労働者が保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針」です。
法律に基づいた医師の指示書であれば強制力があり、病院からのマタハラへも十分対処できるでしょう。
3)転職
病院からのマタハラが収まらないなら、最終手段として転職する方法があります。
転職なら職場環境や関わる人が一新され、一からやり直せるからです。
転職時期については、出産後が良いでしょう。出産までに転職する方法もありますが、妊婦の状態で採用される可能性は極めて低いからです。
また出産後に転職するなら、子育てと両立がしやすい職場を選べるメリットもあります。夜はお子さんと一緒に寝てあげたいなら夜勤のないクリニックを、保育園の送り迎えに合わせて働きたいならパートで再就職しても良いでしょう。
出産後の働き方の事例について、厚生労働省の「看護職のキャリアと働き方」が参考になりますので、合わせてご活用ください。
転職はハードルが高いと思われがちです。しかし、あなたの希望条件にあった最適な職場を見つける絶好のチャンスでもあります。解決できそうにないマタハラに悩むくらいなら、転職することをおすすめします。
まとめ:勇気を出して早い時期に妊娠報告をしましょう
以上、看護師が職場に妊娠報告するタイミングと注意点・早めに報告するメリットについて解説しました。
要点を以下にまとめます。
- 妊娠報告のタイミングは初産婦なら8週目、経産婦はなら16週目
- 早めに妊娠報告しておくと助けてもらいやすくなるメリットがある
- マタハラには適切な対処方法がある
妊娠することで他のスタッフへ迷惑をかけてしまうのではないかと考え、報告のタイミングを伺っている看護師も多いのではないでしょうか。
早めに報告すると周りのスタッフに相談できたり、助けてもらったりしやすい環境作りができるでしょう。また勤務調整の希望も出せるため、体調を考慮した働き方ができます。産休まで働きたいなら、患者に加えて、お腹にいる胎児の命を守らないといけません。
また、妊娠中の注意点や出産後の働き方について、妊娠経験のあるスタッフに相談できるメリットもあります。
反面、マタハラの被害に遭う可能性もあるため、記事内で紹介した対処方法をご活用ください。
職場へ妊娠報告をするタイミングを考えるために、この記事が参考になれば幸いです。
この記事を書いた人
秋山 京洋
広島県立三次看護専門学校卒業。看護師免許取得。小児科や一般外科病棟を経験。現在は臨床で培った知識やスキルを活かしてライターとして活動中。執筆業以外にもKindle本の出版や絵本制作など精力的に活動の場を広げている。